決済システムを運用していると、決済エラーや課金失敗をいち早く把握して対応することが、事業継続において重要な課題となります。サブスクリプションビジネスであればなおさらで、決済エラーを見落としてしまうと売上機会の損失に直結してしまうでしょう。そのため、適切な通知・管理体制の構築は欠かせません。
多くの開発チームが悩んでいるのが「Stripe の決済エラーをタスク管理システムにどう連携させるか」という問題。これまでは Webhook を使った独自開発が一般的でしたが、今では複数の方法が選択できるようになっています。
この記事では、Stripe 決済エラーを Backlog で管理するための3つの方法を比較検討し、あなたの要件に最適な技術選定をお手伝いします。
方法その1:Stripe ワークフロー(ノーコード)

Stripe から提供されているワークフロー機能を使えば、ダッシュボード上のビジュアルビルダーでノーコードの自動化を実現できます。現在(2025年9月時点)は公開プレビュー版として提供されており、複数ステップの処理フローを視覚的に設計できるのが大きな特徴です。
この方法では、Stripe ワークフローと Backlog の「メールによる課題登録」機能を組み合わせて使います。ワークフローの「Email team member」アクションで Backlog の課題登録用メールアドレスに通知を送信し、自動的に課題として登録させる仕組みです。

この方法の最大の魅力は、なんといっても導入の手軽さ。開発が不要なため、設定さえ済ませればすぐに運用を開始できます。ダッシュボードでの設定変更のみで管理できるので、運用負荷も軽く済みます。直感的なビジュアルインターフェースを採用しているため、学習コストも最小限です。
ただし、制約もあります。メッセージのカスタマイズは Key-Value 形式の情報追加程度に留まり、読みやすい形式への整形は困難です。
また、請求明細など複数項目を含む配列データの処理には2025年9月時点で対応していません。通知先も Stripe チームメンバーとして登録したアドレスに限定されるため、柔軟性に欠ける面もあります。

この方法が向いているのは、基本的な決済エラー通知で十分な場合や、開発リソースを投入できない状況です。迅速な運用開始が必要で、小規模チームでシンプルな運用を求めるケースにも適しているでしょう。
方法その2:EventBridge + SNS
AWS の EventBridge と SNS を組み合わせた方法では、Stripe イベントをより柔軟に処理して通知できるようになります。AWS CDK などの IaC ツールでインフラストラクチャをコード管理しながら、高度な通知システムを構築する方法です。

この方法では、Stripe の EventBridge 連携機能を利用してイベントを AWS に送信し、EventBridge ルールで条件フィルタリングを行った後、SNS トピック経由で Backlog の課題登録用メールアドレスに通知を送信します。

この方法では、メッセージ本文を柔軟にカスタマイズできることが強みです。Markdown または Backlog 記法でメッセージを構成できます。また、SNS から Amazon Q Developer in chat に連携させることで Slack への通知も並行して行えます。
また、EventBridge と SNS のみを利用することから、CDKスタックの依存関係管理さえ定期的に行えばインフラの保守工数はほとんど必要ありません。Stripe ワークフローよりはコードが登場しますが、あくまで構成管理のみの用途ですので、こちらもノーコードツールに近しいと言えるでしょう。
ただしこちらの方法では、Stripe ワークフローと異なり Stripe のデータ収集等追加のアクションが行えません。受信したイベントデータを整形して SNS へ渡すだけになるため、それ以上のアクション、例えば追加情報の収集などが必要な場合はAWS Lambda が必要となります。とはいえ後から AWS Lambda を追加することも難しくないため、スモールスタートの開始地点として選択するのも良いでしょう。
どちらを選ぶべきか?
導入コストを重視するなら、Stripe ワークフローが圧倒的に有利です。開発が不要で即座に運用を開始できる一方、EventBridge + SNS は多少の AWS 知識やセットアップ作業が必要となります。ただし複数のサービスや通知ワークフローを構築したい場合、 CDKで構成管理しておけば横展開が非常に簡単となります。
そのため、シンプルな通知フローを目指すならば Stripe ワークフロー、統一されたフローや AWS との連携などを将来的に見据えたフローを構築したい場合には、EventBridge を利用することをお勧めします。
スクラッチ開発という第3の方法
既存の2つの方法では要件を満たせない場合もあります。そんな時は、独自のアプリケーションやワークフローを開発する方法もあります。開発を行う場合、Backlogへのデータ送信に Backlog API が利用できることもメリットとなり、より柔軟な表現やワークフロー構築が可能となります。

決済システムとタスク管理ツールの連携では、事業の性質や運用体制により求められる機能が大きく異なります。汎用的なソリューションでは対応できない複雑な要件も存在します。
例えば、既存システムとの複雑な連携が必要な場合や、独自の業務ロジックを組み込みたい場合などです。こうしたケースでは、要件に完全に合わせたカスタム開発が最も効果的かもしれません。
弊社では、Stripe 決済システムと Backlog をはじめとした各種ツールとの連携開発をお手伝いしています。要件整理から設計、開発、運用まで一貫してサポートできるので、技術選定に迷われている場合や、より高度な連携システムが必要な場合はお気軽にご相談ください。
最適な方法を見つけるために
Stripe 決済エラーの Backlog 連携にはいくつかの方法があり、それぞれに適した使い所があることがおわかりいただけたでしょうか。
項目 | Stripeワークフロー | EventBridge+SNS | カスタム開発 |
導入コスト | 低 | 中 | 高 |
柔軟性 | 低 | 中 | 高 |
保守性 | 高 | 中 | 低 |
まずは要件を整理することから始めてみてください。シンプルな通知で事足りるなら Stripe ワークフローが手軽ですし、高度な機能が必要なら EventBridge + SNS という方法が有効です。どちらも要件に合わない場合や、判断に迷ってしまう場合は、カスタム開発による個別最適化も検討する価値があります。
決済システムの安定運用において、エラー通知の自動化は欠かせない要素。ぜひ自社の状況に最適な方法を選択して、効率的な決済管理体制を構築していきましょう。
まとめ
Stripe の通知システム構築において、ワークフロー機能は簡単に始められる優れた方法です。しかし、より高度な要件に対応するためには、EventBridge + SNS を活用した方法が効果的です。
組織の技術リソースと要件に応じて適切な方式を選択し、段階的に高度化していく方法を取ることで、効果的な決済システム運用基盤を構築できるでしょう。
どちらの方式を選択するにせよ、決済エラーの早期発見と迅速な対応は、サービス品質の維持において重要な要素です。自動化された通知システムの導入により、運用効率の大幅な改善が期待できます。
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