この記事では SaaS ビジネスを運営する上で欠かせない「売上・収益の分析」と「レポート作成」を Stripe で効率的に実現する方法を紹介します。Stripe ダッシュボードや Stripe Sigma を使えば、様々なレポートを作成できます。また、コストの試算方法も学べるため、現在運用中のサービスや開発予定のサービスで、Stripe のレポーティング機能が活用できるかどうかを適切に判断できるようになります。
売上という「サービスの現在位置」を調べる方法
SaaS を運営する中で、重要なルーティンワークの1つが「売り上げの現状把握」です。現在、担当・運営しているサービスに関わっているメンバーのうち、どれくらいの人が売上や申込状況などを把握していますか?
例えば、月間のサービス解約率やトライアルから本申込に至った割合(CVR)をチームが把握していれば、サービスの申し込みやオンボーディングフロー・製品機能やサポートに対する満足度などの変化をとらえるキッカケにできます。
しかし現実的な問題として、解約率やトライアルからの CVR・商品や料金プランごとの申し込み数といったデータは、誰かが定期的に時間をかけて集計・レポートするしかないものになりがちです。そのため、それぞれの数字が悪化してから気づくまでにタイムラグが発生しますし、初期のスタートアップや中小企業においては「その集計をやる人手も時間もない」といって数字を見ることを諦めてしまうこともおこりがちです。
このような問題を解決する方法の 1 つとして有効なのが、 Stripe です。 Stripe を使うことで、ダッシュボード上で売り上げや申し込み・解約に関する簡単なレポートを無料で手に入れることができます。しかも実際に Stripe 上を通過している決済データを元にしているため、今日この日のデータについても見ることができる、非常に強力な分析・レポートツールです。
サービス立ち上げ期の現状把握は、 Stripe ダッシュボードで
売上のレポートや分析は成長に欠かせません。しかしプロダクトを新しく市場へ投入するフェーズにおいて、社内のレポートや分析にまで準備やリソースを用意することは非常に困難です。そんな時でも活用できるのが、 Stripe のダッシュボードです。ダッシュボードを利用することで、その時点の売り上げ、優良顧客や最近解約した顧客は誰かなどのデータをすぐに見つけることができます。
レポート機能で、現状を Stripe に説明してもらおう
年ごと、月ごとの売上や成長率については、月ごとの経営会議や VC(ベンチャーキャピタル) との会話でも話題になるトピックです。 Stripe に取引を集約している場合、このような数字についてもダッシュボードを開くだけで確認できます。
Stripe ダッシュボードにて、「レポート作成」から「概要」を選択してみましょう。すると今年の総売上や Stripe の手数料を差し引いた純売上が確認できます。

また、月ごとの推移や成長率についても、グラフとテキストでレポートされます。このデータを使うことで、サービスの概況について事前準備なしに確認・共有することができます。

この他にも、解約に関するレポートや MRR(Monthly Recurring Revenue 月次経常収益)についても、「Billing」から「概要」を選択することでチェックできます。

Stripe を使っている他社との簡単なベンチマーク機能も用意されています。これをチェックすることで、似たような ARR(Annual Recurring Revenue 年間経常収益) / ARPU(Average Revenue Per User ユーザーあたりの平均収益) / ビジネスモデルと比較した現状分析なども行えるようになっています。

Stripe Sigma で取引データを深掘りする
Stripe ダッシュボードのレポートを使うことで、追加費用なしに様々なデータやリストを Stripe 上で確認できます。しかし商品・料金ごとの契約数や月ごと・年ごとの推移といったより深掘りしたデータが必要な場合には、追加の作業が必要となることがあります。 CSV データをダウンロードして、自分で分析することも可能ですが、CSV データのチェックや分析のための計算式の作成・シートのカスタマイズなどの手間を考えると持続的ではなく、結果的に人手やコストが嵩みがちです。
Stripe を利用している場合、より低コストで分析を実現する方法として、 Stripe Sigma を利用できます。これは Stripe 上にあるデータに対して SQL を実行してデータを集計、CSV 出力できるツールです。実際の取引・決済データを元にデータの収集や集計が行えるため、より精度の高いインサイトを迅速に生み出すことが可能です。
まずはテンプレートでデータを集計する
「SQL での分析」と聞くと、開発チームや BI に長けたメンバーの協力がないと導入できないツールに見えます。しかし、Stripe Sigma の場合は、自分で SQL を書かなくても分析ができるように作られています。
SQL を書かずに SQL で分析する仕組みの1つが、テンプレート機能です。Stripe Sigma では 30 を越えるテンプレートが用意されており、1クリックで分析をすぐに実行できます。

Stripe Sigma は SQL 実行回数ではなく、Stripe アカウントの取引件数で利用料金が決まります。計算方法はこの後のセクションで解説いたしますので、ここでは「何回 SQL を実行しても、それによってコストが増えることはない」とだけ覚えてください。この料金モデルなら、「まずはテンプレートを全て実行して、各チームに必要なデータが取得できるかを確認する」という試し方が可能です。
Sigma AI でクエリをカスタマイズしよう
テンプレートで簡単にデータの取得ができるとはいえ、欲しいデータが常にあるとは限りません。そうなるとやはり SQL の知識が必要になる… と思いきや、 Stripe Sigma には Text to SQL の AI アシスタント機能が搭載されています。これによって、「price の nickname も取得して欲しい」や「月ごとの解約件数を集計して」のような指示を出すだけでクエリの作成や調整ができるようになっています。

ただし、この機能を日本語版で使う場合、一点だけ注意が必要です。それは「2025/05 時点で日本語に対応していない」ということです。そのため、Google 翻訳や生成 AI などを用いて指示を英語に変換する必要があることを覚えておきましょう。

スケジュール機能で定量データ分析を始めよう
分析やレポートは、定期的にデータを収集する必要があります。これによって月ごとや年ごとの変化に気づいたり、施策の効果を振り返ることなどが可能となります。 Stripe Sigma で分析を行う場合、日毎・週毎・月毎の3種類からクエリのスケジュール実行が設定できます。

実行結果は Stripe ダッシュボードにログインユーザーとして登録されているメールアドレス宛にメールで通知するか、sigma.scheduled_query_run.created
の Webhook イベントを利用してシステムと連携させることができます。
Stripe Sigma のコスト試算方法
このように Stripe Sigma は非常に強力な分析ツールです。しかし、一方で従量課金型の有料ツールであることに不安を感じる方も多いでしょう。導入にあたっては事前にコストの見積もりやニーズの調査を実施することをオススメしますが、ここからはデジタルキューブで実際に行ったコスト試算方法をご紹介します。
Stripe Sigma の料金構造を理解する
Stripe Sigma の料金体系をシンプルにまとめると、次のようになります。
取引件数に基づく従量課金 + 月額インフラ料金 = Stripe Sigma 料金
ここでポイントとなるのは、従量課金の計算対象が取引金額ではなく件数であることです。例えば、1件の1万円の取引と1件の100円の取引は、Sigmaの料金計算上は同じ「1件」としてカウントされます。
取引件数に基づく従量課金は、使えば使うほど単価が安くなる料金モデルを採用しています。調査を行った 2025/05 時点では、以下のように 500 / 1,000 / 5,000 件を境に単価が安くなる構造でした。
- 最初の500件:1件あたり 2.25 円
- 次の500件(501-1,000件):1件あたり 2.00円
- 1,001-5,000件:1件あたり 1.80 円
- 5,001~50,000件:1件あたり 1.60 円
- それ以上: 営業への問い合わせ
月額のインフラ料金についても同様です。こちらは月間の取引件数に応じた固定費用が設定されており、 500 / 1,000 / 5,000 件を境に単価が安くなる構造です。
- 1-500件:1,000 円
- 501-1,000件:3,000 円
- 1,001-5,000件:5,500 円
- 5,001~50,000件:11,000 円
- それ以上: 営業への問い合わせ
Stripe Sigma を利用する上でまず調べるべきことは、「現在(または将来目指す)月間の取引件数は何件か?」です。高単価で件数の少ないプロダクトであれば割安になる可能性が高く、単価の低い EC サイトのような取引件数の多いプロダクトでは慎重にコスト計算と導入検討を行う必要があると言えるでしょう。
Stripe Sigma における「取引件数」を理解する
コストの試算にあたっての重要点はもう1つあります。それは「取引件数の定義」です。特に注意が必要なのは、「オーソリをかけただけの取引やカード以外の決済も、取引件数としてカウントされる」ことでしょう。Stripe のサポートドキュメントには、次のように説明されています。
これには、貴社または連結アカウントのいずれかが、オーソリリクエストまたは支払いリクエストを決済カードネットワークに送信する場合や、銀行振込などの代替決済手段を利用して支払いを処理する場合が含まれます。
https://support.stripe.com/questions/understanding-stripe-sigma-pricing?locale=ja-JP
つまり Stripe Sigma での請求根拠となる「取引件数」には、次の 3 種類があるといえます。
- 実際に処理された決済(キャプチャされた決済)
- 未キャプチャの認証(オーソリ)リクエスト
- カード以外の決済方法による取引(銀行振込など)
デジタルキューブ社内で試算した時には、導入を検討している Stripe アカウントにある Payment Intents の件数を数えることで、取引件数の概算を出しました。ホテル予約のデポジットのようなオーソリだけ行うケースにおいても、Stripe Checkout や Stripe Billings を利用したサブスクリプションの繰り返し決済においても、 Stripe 上では 1 つの Payment Intent リソースが作成されます。また、ドキュメントから「オーソリとキャプチャのタイミングが別だとしても、取引件数は 1 件とカウントされる」ことが伺えました。この仕様についても、Stripe 上では 1 つの Payment Intent リソースにて処理されますので、概算のためにカウントする対象として最適であると考えました。
Payment Intents の数を計算するには、 Stripe ダッシュボードや API が利用できます。 Stripe API を利用し、期間を指定して Payment Intents を取得することでカウントすることもできます。またダッシュボードであれば、「取引」タブの検索機能で「範囲指定」による検索を使うことで抽出が可能です。

取引件数がわかれば、あとは Stripe が提供している手数料シミュレーションツールを利用しましょう。スライダーを左右に動かして、「月額料金」と書かれている数字を概算した数字に近い値に調整します。すると右側に「推定月額コスト」が日本円で表示されます。スライダー下部には料金の内訳も表示されますので、この数字も参考にしましょう。

Stripe Sigma の費用をチェックする方法
Stripe Sigma で発生した料金は、「Stripe 追加料金 」という明細で「残高のサマリー」レポートなどに記載されます。しかしここには Revenue Recognition などの別ツールの料金も含まれますので、Sigma 単体のコストを見るには1手間が必要です。

レポートにて「Stripe 追加料金」の項目にある「Download」ボタンをクリックしましょう。すると CSV データで明細がダウンロードできます。このファイルを開いて、 description に 「Sigma」と記載された項目の金額をチェックすることで、費用明細をチェックしましょう。

Stripe sigma で Stripe Sigma のコストをチェックする
もちろん Stripe Sigma のコストも Stripe Sigma で分析できます。 Sigma のテンプレートから「Itemized balance change from activity report」を選んで実行しましょう。 description に 「Sigma」と含まれているものが Sigma の手数料です。

ちなみに、Sigma AI に「I want to know about the fee from Stripe Sigma.」のように指示をすると、 SQL を編集して Sigma やそれに関連する手数料だけのデータを表示してくれます。
まとめ
Stripe では、スムーズな決済・サブスクリプション機能の組み込みや提供だけでなく、サービスのリリース後に必要になる分析や集計などの機能も複数用意されています。ダッシュボードでのレポートや検索に CSV でのデータエクスポート、そしてカスタマイズ可能なホーム画面などを利用することで、追加コストなしにリリース後に浮上しやすい社内開発・調査タスクに対応できます。
もし必要なデータがダッシュボードや API からすぐに取得できない場合は、 Stripe Sigma で対応できます。これを利用することで、より詳細なデータの集計や CSV 出力も可能です。追加コストが必要となるサービスではありますが、取引件数ベースという料金体系や見積もりツールの提供など、導入にあたってのハードルもあまり高くないツールでした。
もし営業やマーケティング、経理チームなどがデータの集計や分析に悩んでいる様子でしたら、ぜひこれらの Stripe が持つ便利機能で解決できないかを提案してみてください。30日のトライアルも提供されていますので、30日間で必要なデータが取得できるかなどを調べてみるのもオススメです。
Stripe を活用したオンライン決済システム導入をサポートします
株式会社デジタルキューブは Stripe 公式パートナーとして、自社サービス開発で培った経験を活かし、Stripe を用いた決済システムの導入を支援します。多言語対応の決済フォーム実装、モバイル支払い対応、柔軟な従量課金システム構築など、ユースケースに合わせた活用方法の提案から、専用ダッシュボードの開発まで幅広くサポートします。
SaaS ダッシュボード開発や EC サイトへの Stripe 決済導入など、様々な導入実績があります。 API の呼び出しだけで決済機能を実装できる Stripe の利点を最大限に活かしたシステム構築をお手伝いします。